社内でパソコンやネットワークの不調が起きたとき、誰に声がかかるでしょうか。
総務の担当者や、少しITに詳しい社員が「ついで」で対応している会社は少なくありません。
専任のIT担当者を置かないこの状態は「ゼロ情シス」と呼ばれます。
ただし日常の業務が回っているうちは、問題として認識されにくいのが実情です。
そのため対応が後手に回り、事故が起きて初めて体制の不備が表面化します。
本記事ではゼロ情シスの定義や、放置した場合のリスクと解消するまでの5ステップを解説します。
目次
ゼロ情シスとは
ゼロ情シスの意味
情報システムを専門に見る社員が社内にひとりもいない会社の状態を、ゼロ情シスと呼びます。
IT機器の管理やトラブル対応は、総務や経理の社員が本業のかたわらで引き受けているケースが多くあります。
社長や役員が自ら対応している企業も珍しくありません。
この状態は決して例外的ではありません。
セキュアSAMBAが2025年11月に中小企業を中心に実施した調査があります。
ITシステムの管理体制を尋ねたところ、「担当者は誰もおらず、各自で対応している」との回答が30.8%にのぼりました。
他業務との兼任を含めると、専任の担当者を置いていない企業は約62%に達します。
つまり中小企業の約3社に2社は、IT業務を専任で見る人がいない状態にあります。
出典:セキュアSAMBA「ファイル管理とセキュリティに関する意識調査」
呼び方は文脈によって変わり、「情シス不在」「IT担当者不在」と表現されることもあります。
いずれも指している状態は同じで、IT業務を専任で見る人がいないという点で共通しています。
ひとり情シス・兼任情シスとの違い
混同されやすい3つの状態を、専任担当者の人数とIT業務の位置づけで整理すると次のようになります。
| 状態 | 専任のIT担当者 | IT業務の位置づけ | 主なリスク |
|---|---|---|---|
| ゼロ情シス | 0人 | 誰の担当でもない | 異常に気づけず、事故が起きても復旧できない |
| 兼任情シス | 0人(兼任者あり) | 他業務と並行した「ついで」の作業 | 本業が優先され、IT業務が後回しになる |
| ひとり情シス | 1人 | 専任1人にすべて集中 | 業務が属人化し、離職で一気にゼロへ戻る |
ゼロ情シスと兼任情シスは、専任者がいない点で共通します。
分かれ目は責任の所在が決まっているかどうかです。
兼任者がいれば相談窓口は存在しますが、権限も評価も伴わなければ実質的にゼロ情シスと変わりません。
ひとり情シスは専任者がいる分だけ前進した状態です。
ただしその1人が退職すれば、組織はそのままゼロ情シスに戻ります。
つまり3つの状態は固定されたものではなく、行き来するものだと捉えるべきです。
自社がゼロ情シスか確かめるチェックリスト
専任者の有無だけでは、自社の状態を正確に判断できません。
実務が回っているかどうかを、次の項目で確かめてみてください。
- 社内で使っているパソコンの台数を即答できない
- 退職した社員のアカウントを、いつ誰が停止したか追えない
- 業務で使っているSaaSの契約一覧がどこにもない
- サーバーやNASのバックアップを最後に確認した日がわからない
- ネットワーク機器の設定を触れる社員が社内にいない
- IT関連の相談先が、機器を購入した販売店しかない
- セキュリティ対策の予算が計上されていない
3つ以上当てはまるなら、名目上の担当者がいてもゼロ情シスに近い状態です。
5つ以上なら、事故が起きたときに自力で対処できない可能性が高いといえます。
まずはどの項目が埋まっていないかを把握することが、ゼロ情シス解消の出発点になります。
ゼロ情シスが生まれる3つの要因
ゼロ情シスは、経営判断として意図的に選ばれることもあります。
ただし多くの企業では、次の3つが重なって「気づいたらいない」状態に至っています。
IT人材を採用できない
情シスを採用しようとしても、中小企業が募集をかけて人材を確保するのは容易ではありません。
IT人材は事業会社とIT企業の双方が奪い合っており、待遇面で競り負けやすいためです。
仮に採用できたとしても、1人目の情シスは相談相手がいない環境に置かれます。
その結果として定着せず、欠員が埋まらないまま時間が過ぎるケースも起こります。
クラウド化で管理が不要になったと誤解されている
クラウドサービスの普及で、サーバーの構築や保守といった作業は確かに減りました。
そのため「専門の担当者はもう必要ない」と判断されることがあります。
しかし実際には、管理する対象がハードウェアからアカウントと権限に移っただけです。
誰がどのサービスにアクセスできるかを決め、退職時に確実に止める作業はむしろ増えています。
この移り変わりが見落とされると、管理されないアカウントが社内に積み上がっていきます。
担当者の退職がそのまま欠員になる
ゼロ情シスに至る経路として見落とされがちなのが、ひとり情シスの退職です。
専任者が1人だけの体制では、その人が抜けた瞬間に担当者が0人になります。
後任がすぐに見つかる保証はなく、社内に引き継げる人もいません。
そのうえ業務が属人化していれば、何をしていたのかすら分からない状態で引き継ぎが始まります。
この空白期間がそのまま常態化し、ゼロ情シスとして固定されてしまいます。
ゼロ情シスの5つのリスク
ゼロ情シスの厄介なところは、平常時には不具合が見えない点にあります。
問題が表面化するのは、たいてい取り返しがつかなくなった後です。
①セキュリティ事故を防げず被害が長期化する
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、ランサムウェア攻撃が4年連続で組織向けの1位となりました。
2位はサプライチェーンや委託先を狙った攻撃で、AI利用に関するリスクが3位に初めて選出されています。
これらに対処するには、更新プログラムの適用や多要素認証の設定といった日常の運用が欠かせません。
担当者がいなければ、この運用そのものが止まります。
結果として、既知の脆弱性を残したまま攻撃を受ける状態が続きます。
投資が進んでいない実態もあります。
IPAが中小企業を対象に行った実態調査では、直近3期でセキュリティ対策に投資していない企業が62.6%でした。
投資しない理由の最多は「必要性を感じていない」で、44.3%を占めています。
出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」/「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」報告書(2025年5月公表・全国の中小企業4,191社が回答)
②トラブル対応が遅れて業務が止まる
サーバーの停止やネットワークの断絶が起きたとき、判断できる人が社内にいなければ復旧は始まりません。
販売店やベンダーへ連絡しても、社内の構成を説明できなければ切り分けに時間がかかります。
2021年10月、徳島県のつるぎ町立半田病院がランサムウェアに感染し、電子カルテが使用できなくなりました。
通常診療の再開までにはおよそ2か月を要しています。
公表された調査報告書では、情報システムの担当者が1名で日々の運用に手一杯だった点が指摘されました。
この事例で重要なのは、専任者が1名いてもこれだけの時間がかかったという事実です。
担当者が0人であれば、被害の把握から復旧の判断まですべてが外部任せになります。
停止期間はさらに長期化すると考えるべきです。
③シャドーITが広がり管理が効かなくなる
会社が使用を把握していないIT機器やサービスが、現場の判断で業務に使われている状態をシャドーITと呼びます。
申請先も判断基準もなければ、現場は自分たちで使いやすいものを選びます。
無料のファイル共有サービスに顧客データが置かれたり、個人のアカウントで業務チャットが運用されたりします。
悪意があって起きるわけではなく、目の前の仕事を進めるための選択です。
だからこそ止めるのが難しく、把握しないまま件数だけが増えていきます。
④IT資産とアカウントがブラックボックス化する
台帳がない状態では、何を持っていて何にいくら払っているかが分かりません。
退職した社員のアカウントが残り続け、使っていないSaaSの料金を払い続ける事態も起こります。
問題はコストだけにとどまりません。
放置されたアカウントは不正アクセスの入口になり、退職者による情報の持ち出しにもつながります。
把握できていないものは守れないため、対策の優先順位すら決められなくなります。
⑤取引先のセキュリティ審査に通らない
近年は、大手企業が取引先に対してセキュリティ体制の確認を求めるようになりました。
委託先を経由した攻撃が増えたことで、取引の条件として体制を問う動きが広がったためです。
確認はチェックシートへの回答という形で届きます。
管理責任者の氏名、資産管理の方法、インシデント発生時の連絡体制などが問われます。
ゼロ情シスでは記入できる情報がなく、回答そのものが滞ります。
体制の不備は、セキュリティの問題であると同時に商談を失う要因にもなります。
新規の取引が始められず、既存の取引も見直しの対象になりかねません。
ここまでの5つは、いずれも現状を把握するところから解消に向かいます。
ゼロ情シスを解消する5ステップ
ゼロ情シスの解消といっても、いきなり情シス部門を立ち上げる必要はありません。
順序を守って進めれば、兼任の担当者でも着手できます。
ここで大切なのは、モノを整理してから人を決めることです。
何を管理するのかが分からないまま担当を割り当てても、責任範囲を定義できないからです。
①IT資産とアカウントを棚卸しする
最初にやるべきは、社内にあるものをすべて書き出す作業です。
パソコンやサーバーなどの機器に加えて、契約しているSaaSとその利用者も対象に含めます。
専用のツールは要りません。
表計算ソフトで機器名・利用者・購入時期・契約先を並べるだけでも、現状は十分に見えてきます。
この一覧が、以降のすべての判断の土台になります。
棚卸しの過程で、使われていないアカウントや契約が必ず見つかります。
不要なものを止めるだけでコストが下がるため、経営層の理解も得やすくなります。
②IT業務の担当者と責任範囲を決める
棚卸しが済んだら、誰が何を見るのかを正式に決めます。
専任者を置けない場合でも、兼任のまま放置するのとは意味が変わります。
決めるべきは3点です。
1つ目は担当する業務の範囲、2つ目は判断できる権限、3つ目はIT業務に充てる時間の目安です。
この3点を明文化し、本人の評価にも反映させます。
権限と時間を伴わない任命は、担当者に責任だけを負わせる結果になります。
兼任者が本業を優先してIT業務が止まるのは、本人の意識ではなく設計の問題です。
③バックアップと認証を優先して固める
セキュリティ対策は範囲が広く、すべてを同時に進めるのは現実的ではありません。
限られた人員で先に固めるべきは、バックアップと認証の2つです。
バックアップは、事故が起きた後に事業を戻せるかどうかを決めます。
取得しているだけでは足りず、実際に復元できるかを一度試しておく必要があります。
攻撃者はバックアップ自体も狙うため、ネットワークから切り離した保管先を用意します。
認証は、侵入そのものを防ぐ入口の対策です。
管理者アカウントと業務で使う主要なサービスから、多要素認証を有効にしていきます。
この2つが固まれば、被害を受けても事業が止まる時間を短くできます。
④社外に相談できる窓口を用意する
社内だけで判断できない場面は必ず訪れます。
そのときに連絡先を探し始めるようでは、初動が遅れて被害が広がります。
機器を購入した販売店は、あくまで製品の窓口です。
社内全体の構成を踏まえて優先順位を判断できる相手を、平常時に確保しておきます。
何が起きたら誰に連絡するのかを、担当者以外の社員にも共有しておくと安心です。
⑤対応手順を記録に残す
最後に、日々の対応を記録として残す習慣をつけます。
完成度の高い手順書を作る必要はなく、実施したことを書き留めるだけで構いません。
アカウントを発行した日、設定を変更した内容、トラブルの原因と対処。
これらが残っていれば、担当者が交代しても業務は途切れません。
記録の積み重ねが、属人化を防ぐ唯一の方法です。
IT体制を確保する4つの選択肢
5ステップを進めるなかで、社内のリソースだけでは足りないと分かる場面が出てきます。
外部の力を借りる方法は複数あり、それぞれ得意な領域が異なります。
正社員を採用する
自社で情シスを正社員として抱える手段です。
社内の事情を深く理解した人材が育ち、ノウハウが会社に蓄積されます。
一方でコストは大きくなります。
社内向けSEの平均年収は約580万円で、法定福利費や採用費、教育費を含めた企業負担は年間約700万円が目安です。
募集から入社までの期間も必要なため、いま起きている問題の解決には間に合いません。
情シス派遣を利用する
派遣会社を通じて、必要な期間だけ人材を受け入れる方法です。
経験3年から10年程度の社内SEを受け入れる場合、単価は月80万〜100万円前後が目安になります。
採用より早く着手できる反面、指揮命令は自社が担います。
業務を指示できる人が社内にいなければ、受け入れても機能しません。
ゼロ情シスの状態から最初に選ぶ手段としては、扱いが難しい選択肢です。
情シスアウトソーシングを利用する
情シス業務そのものを専門の事業者に任せる手段です。
ヘルプデスクやIT資産管理といった日常業務から、セキュリティ対策や体制の立ち上げまで対応範囲は幅広くあります。
費用は依頼する範囲によって変わります。
毎月の情シス業務を任せる場合は月2万〜40万円程度、運用改善や環境改善まで含めると月50万円からが目安です。
都度のスポット依頼であれば5万〜10万円で対応できる場合もあります。
指揮命令を自社で持つ必要がなく、成果物や対応範囲を契約で定めます。
そのため社内に指示できる人がいなくても成立します。
ITコンサルティングを利用する
課題の整理や中長期の計画づくりを外部の専門家に相談する手段です。
何から手をつけるべきか判断できない段階では、この視点が役立ちます。
ただし多くの場合、計画の策定までが支援の範囲です。
日々のトラブル対応や運用は含まれないため、実行を担う体制は別に用意する必要があります。
費用は支援する範囲や期間によって幅があります。
自社に合う選択肢の見極め方
4つの選択肢を、着手までの速さと担える範囲で比較すると次のようになります。
| 選択肢 | 費用の目安 | 着手までの速さ | 社内の指示役 | 向いている状況 |
|---|---|---|---|---|
| 正社員採用 | 年間約700万円 | 遅い | 不要 | 長期的に自社で体制を持つと決めている |
| 情シス派遣 | 月80万〜100万円前後 | やや速い | 必要 | 指示できる担当者がすでに社内にいる |
| アウトソーシング | 月2万〜40万円(改善まで含めると月50万円〜) | 速い | 不要 | いま起きている業務を止めずに引き継ぎたい |
| ITコンサルティング | 支援範囲・期間による | やや速い | 不要 | 課題の整理と中長期の計画を先に固めたい |
費用はいずれも目安です。実際の金額は依頼範囲・対応時間・企業規模によって変動します。
ゼロ情シスの状態から選ぶなら、判断軸は「社内に指示できる人がいるか」です。
いない場合、派遣は受け入れても機能せず、採用は間に合いません。
まずアウトソーシングで日常業務を止めずに引き継ぎ、並行して社内の担当者を育てる。
この組み合わせが、無理なく体制を立ち上げる進め方になります。
ゼロ情シスの解消は「IT顧問 情シス君」にご相談ください
株式会社デジタルハックが提供する「IT顧問 情シス君」は、情シスに関する業務を幅広く支援するサービスです。
これまでに250社以上の企業をご支援してきました。
専任の担当者がいない状態からのご相談も多くいただいています。
IT資産の棚卸しやアカウントの整理といった足場固めから、日常のヘルプデスク、セキュリティ対策の実装まで対応します。
| 領域 | 対応できる業務の例 |
|---|---|
| 現状把握 | IT資産管理、SaaS管理、アカウントと権限の整理 |
| 日常運用 | ヘルプデスク、キッティング、ネットワーク・サーバーの運用 |
| セキュリティ | セキュリティ対策の設計と実装、インシデント対応の体制づくり |
| 改善・企画 | 業務改善、データ分析、IT戦略の立案とPM支援 |
料金は業務レベルに応じた時間単価で設定しており、15分単位で調整できます。
必要な範囲だけを依頼できるため、体制の立ち上げ期でも無理のない形で始められます。
どこから手をつけるべきか決まっていない段階でも構いません。
現状をお聞きしたうえで、優先順位の整理からご提案します。
ゼロ情シスに関するよくある質問
ゼロ情シスとひとり情シスはどちらが危険ですか
事故が起きたときの影響が大きいのはゼロ情シスです。
異常に気づく人がおらず、発覚が遅れて被害が広がりやすいためです。
ただしひとり情シスも、その1人が辞めればゼロ情シスに変わります。
どちらの状態でも、業務を1人に依存させない仕組みが必要である点は共通しています。
社員数が少なくても情シスは必要ですか
専任の担当者を置く必要があるかは、社員数ではなく扱う情報で判断します。
顧客の個人情報や取引先のデータを預かっているなら、規模にかかわらず管理する責任が生じます。
経営の観点から見ると、10名程度の規模で専任者を採用・維持することはコスト負担が大きすぎます。
その場合は担当者を決めたうえで、実務を外部に委託する形が取りやすい選択になります。
総務や経理の兼任では不十分ですか
兼任そのものが問題なのではなく、権限と時間が与えられていない点が問題になります。
本業の合間に対応する前提では、緊急時に手を止められず対応が遅れます。
兼任で運用するなら、IT業務に充てる時間を業務時間として確保します。
そのうえで判断できる権限を渡し、評価にも反映させることが欠かせません。
外部委託すると社内にノウハウが残らないのではないですか
契約の内容次第で変わります。
作業の結果だけを受け取る形にすると、確かに社内には何も残りません。
対応の記録や構成の情報を自社に残す取り決めをしておけば、ノウハウは蓄積されます。
将来的に内製へ切り替える可能性があるなら、委託を始める段階で共有の範囲を決めておいてください。
まとめ
ゼロ情シスとは、IT業務を専任で担う社員が社内にいない会社の状態です。
中小企業では専任者を置いていない企業が6割を超えており、決して珍しい状況ではありません。
問題は、平常時に不具合が見えないまま進行することにあります。
セキュリティ事故への無防備、トラブル時の業務停止、シャドーITの拡大、資産のブラックボックス化。
さらに近年は、取引先の審査に回答できず商談を失うリスクも加わりました。
ゼロ情シスの解消は資産の棚卸しから始まります。
何があるかを把握し、担当と責任範囲を決め、バックアップと認証を固める。
そのうえで社外の相談先を確保し、対応を記録に残す流れで進めれば、兼任の担当者でも着手できます。
社内のリソースだけで足りない場合は、外部の活用を検討してください。
指示できる人が社内にいない状態では、アウトソーシングが最も現実的な選択肢になります。










