情シスの業務を効率化したい。
そう考えながらも、日々の問い合わせ対応やトラブル対応に時間を取られ、改善そのものに着手できないという声は少なくありません。
結論から述べると、情シスの効率化は着手する順番で成果が大きく変わります。
問い合わせを減らす、定型業務を自動化する、外部の力を借りる。
この順で進めると、少ない投資で効果が表れやすくなるためです。
逆に順番を誤ると、ツールばかりが増えて負担は変わらないという結果になりかねません。
本記事で解説するのは、情シスの業務効率化に効く7つの方法です。
工数削減のインパクトと着手のしやすさで優先順位をつけたうえで、ツールの選び方、生成AIの組み込み方、90日で回す実行プランまで整理しました。
\情シス体制の見直しをご検討中の方へ|無料相談はこちら/
目次
情シスの業務効率化とは何か
効率化の方法を検討する前に、そもそも何を目指す取り組みなのかを整理しておきましょう。
ここが曖昧なままでは、手段の導入そのものが目的にすり替わりかねません。
業務効率化と生産性向上の違い
業務効率化とは、同じ成果をより少ない時間や工数で出せるようにする取り組みを指します。
対する生産性向上は、投入する資源に対して得られる成果そのものを大きくする考え方です。
| – | 業務効率化 | 生産性向上 |
|---|---|---|
| 目的 | ムダな工数を減らす | 成果の総量を増やす |
| 主な手段 | 標準化・自動化・外部活用 | 付加価値の高い業務への再配分 |
| 測る指標 | 削減できた時間・件数 | 投入工数あたりの成果 |
| 情シスでの例 | 問い合わせ対応の時間を月20時間削減する | 空いた20時間をIT戦略の立案に充てる |
両者は対立する概念ではありません。
効率化で生まれた時間を何に使うかを決めて、初めて生産性向上につながります。
削減した工数の使い道を先に決めておくと、社内での説明もしやすくなるでしょう。
情シス業務は判断と実行に分けられる
情シスが担う業務は、大きく2種類に分かれます。
自社の事情を踏まえた判断が必要な業務と、手順に沿って進められる実行業務です。
| 判断が必要な業務 | 手順に沿って進められる業務 |
|---|---|
| IT戦略と中期計画の策定 | 問い合わせの一次対応 |
| IT予算の立案とベンダー選定 | PCのキッティングと初期設定 |
| セキュリティ方針の決定 | アカウントの発行と削除 |
| 重大インシデント時の意思決定 | ライセンスやIT資産の棚卸し |
| 全社の業務プロセス改善の企画 | 定型的な監視とログ確認 |
効率化の対象にしやすいのは、右側の実行業務でしょう。
手順が定まっているため、標準化も自動化も進めやすくなります。
一方で判断を伴う業務も、材料の収集や資料化といった前工程は切り出せるはずです。
判断そのものは社内で下し、実行の一部は仕組みや外部に任せる。
この切り分けが、効率化の設計における基本方針になります。
効果は削減工数で測る
効率化の成果は、削減できた工数で測るのが最も分かりやすい方法です。
「楽になった」という感覚だけでは、社内で共有できません。
予算の獲得や次の施策の判断にもつながらないでしょう。
そこで、着手前に現状の工数を記録しておきましょう。
たとえば問い合わせ対応であれば、月間の件数と1件あたりの平均対応時間を掛け合わせるだけで概算が出せます。
月80件、1件15分であれば月20時間です。
ここを起点にすれば、施策の効果を数字で語れるようになります。
情シスの業務効率化が進まない5つの原因
効率化の必要性を感じていても、実際には進まないケースが大半です。
背景には、担当者個人の努力では解消しにくい5つの構造的な原因があります。
1. 問い合わせ対応に時間を奪われる
最も多いのが、日々の問い合わせ対応で改善に着手する時間が残らない状態です。
「パスワードを忘れた」「VPNにつながらない」「プリンタが動かない」。
一件あたりは数分から十数分の対応でも、割り込みが入るたびに作業は中断されます。
中断からの復帰には想像以上の時間がかかるため、実際の損失は対応時間そのものより大きくなりがちです。
改善のための時間は、意識して確保しない限り生まれません。
ここが効率化の最初の関門といえるでしょう。
2. 少人数で全体を見る体制になっている
2つ目は、1〜2名で全社のITを見る体制そのものが持つ制約です。
総務や経営企画の担当者がITを兼務する体制も、広く見られます。
いずれの場合も、判断業務と実行業務を同じ人が担うため、緊急度の高い実行業務が優先されてしまうのです。
人員を増やして解決するという発想も、現実には成立しにくくなっています。
独立行政法人情報処理推進機構の調査によると、DXを推進する人材が「大幅に不足している」「やや不足している」と回答した企業は85.5%にのぼりました(出典:IPA「DX動向2026」2026年7月)。
経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」2019年4月の試算でも、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると見込まれています。
採用で穴を埋める前提に立つのではなく、いまの体制で回る仕組みをつくる。
それが現実的な打ち手になります。
関連記事:ひとり情シスはなぜつらい?現場が抱える課題と解決策をわかりやすく解説
3. 業務が属人化し手順が残っていない
3つ目は、業務手順が担当者の頭の中にしかない状態です。
忙しい時期ほど、手順書を書くより自分で対応したほうが速く終わります。
その積み重ねで、サーバーの設定意図もベンダーとの取り決めも記録されないまま蓄積されていくのです。
属人化した業務は、効率化の対象にできません。
誰かに任せることも、ツールに置き換えることも難しいためです。
手順が残っていないこと自体が、効率化を止める壁になっています。
関連記事:情シス業務の属人化とは?原因とリスク、効果的な6つの解決策を紹介
4. SaaSの増加で管理対象が広がり続ける
4つ目は、近年になって負荷を押し上げている要因です。
クラウドサービスは各部門が個別に契約できてしまいます。
その結果、情シスが把握していないツールが社内で使われる、いわゆるシャドーITが発生しやすくなりました。
管理対象が増えれば、アカウントの棚卸しも権限の確認も比例して膨らみます。
契約が分散すればコストの全体像も見えません。
効率化を進めた分だけ管理対象が増えていくため、体感としては何も変わらないという状況に陥ります。
5. 削減効果を示せず予算がつかない
5つ目は、効率化の投資判断が社内で通らない問題です。
情シスの成果は、トラブルが起きなかったことに表れます。
平時には貢献が見えにくく、コスト部門とみなされがちです。
ツール導入を提案しても、費用対効果を示せなければ後回しにされてしまうでしょう。
この壁を越えるには、削減できる工数を金額に換算して示す方法が有効です。
月20時間の削減であれば、人件費換算でいくらに相当するのか。
その計算を用意しておくだけで、議論の質は大きく変わります。
情シスの業務効率化7つの方法を優先順位つきで解説
ここからは、情シスの業務効率化に有効な7つの方法を紹介しましょう。
すべてを同時に進める必要はありません。
効果と着手のしやすさを見比べたうえで、取り組む順番を決めていきましょう。
7つの方法の優先順位早見表
7つの方法を、工数削減のインパクトと着手のしやすさで整理しました。
番号は、株式会社デジタルハックが250社以上の支援を通じて有効性を確認してきた着手順を示しています。
| 順番 | 方法 | 工数削減インパクト | 着手のしやすさ | 効果が出るまでの期間 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 業務の棚卸し | 中(前提づくり) | 高い | 2〜4週間 |
| 2 | マニュアル・社内FAQの整備 | 大 | 高い | 1〜2か月 |
| 3 | チャットボット・AIヘルプデスク | 大 | 中 | 2〜3か月 |
| 4 | IT資産管理・SaaS管理ツール | 大 | 中 | 2〜3か月 |
| 5 | RPA・ワークフローによる自動化 | 中 | 低い | 3〜6か月 |
| 6 | キッティング・アカウント発行の標準化 | 中 | 中 | 1〜3か月 |
| 7 | ノンコア業務のアウトソーシング | 大 | 中 | 1〜2か月 |
ポイントは、1と2を飛ばさないことです。
棚卸しをせずにツールを導入すると、削減余地の小さい業務に投資してしまいます。
手順が整理されていない状態で自動化に進めば、非効率な業務がそのまま自動化されるだけの結果になりかねません。
1. 業務の棚卸しで削減余地を可視化する
効率化の出発点は、いまの業務を洗い出して工数を把握する作業です。
どの業務に何時間かかっているかが分からなければ、優先順位も投資判断も決められません。
棚卸しは、次の手順で進めると整理しやすくなります。
- 1週間分の業務をすべて書き出す
問い合わせ対応やベンダーとの打ち合わせも含め、発生した業務を粒度を問わず記録しましょう。 - 業務ごとに件数と所要時間を入れる
正確さより傾向がつかめることを優先します。1件あたりの時間と月間件数で概算すれば十分です。 - 判断が必要かどうかで仕分ける
自社の事情を踏まえた判断が要る業務と、手順どおりに進められる業務に分けてください。 - 属人化している業務に印をつける
担当者以外に対応できない業務は、優先的に手順化すべき対象といえるでしょう。
この作業を終えると、実行業務が全体の何割を占めているかが数字で見えてきます。
多くの現場では、想定より高い比率が出るはずです。
効率化の議論は、ここから始めるのが確実といえます。
2. マニュアルと社内FAQで自己解決を促す
最も費用をかけずに大きな効果が出るのが、マニュアルと社内FAQの整備です。
情シスへの問い合わせは、その多くが同じ内容の繰り返しになっています。
回答を社内に公開しておけば、従業員が自力で解決できる場面が増えるでしょう。
整備しておきたい内容を挙げます。
- パスワードの変更・再発行の手順
- VPNや無線LANへの接続方法
- 業務ツールやSaaSの基本的な使い方
- トラブル発生時の一次対応とエスカレーション先
- アカウント発行や権限変更の申請フロー
- 入退社時に実施するIT作業のチェックリスト
作成のコツは、問い合わせが来たその場で書き残すことです。
まとまった時間を確保して一気に作ろうとすると、着手前に頓挫します。
対応の記録をそのままFAQの下書きに転用すれば、負担はほとんど増えません。
3. チャットボットとAIで一次対応を自動化する
FAQを整備したら、次は問い合わせを受ける入口そのものを自動化します。
FAQを公開しても、そもそも見てもらえなければ問い合わせは減りません。
チャットボットを社内チャットに組み込めば、従業員は普段使っている画面のまま質問できます。
探しにいく手間がなくなる分、自己解決率は上がりやすくなるのです。
近年は、生成AIを使って過去の対応履歴やマニュアルから回答を生成する仕組みも広がってきました。
決められた質問文にしか答えられない従来型と比べ、表現の揺れに強い点が特徴です。
詳しくは後述の生成AIの章で解説します。
導入時は、対応範囲を欲張らないことが重要です。
まずは件数の多い上位10問に絞って回答精度を上げ、そこから範囲を広げていきましょう。
4. IT資産管理とSaaS管理をツールに任せる
表計算ソフトによる台帳運用をやめることも、大きな削減につながるでしょう。
PCやライセンス、SaaSのアカウントを手作業で管理していると、棚卸しのたびに数日単位の工数が発生します。
しかも更新が追いつかず、台帳と実態がずれていくのが実情です。
ずれた台帳は、監査対応やセキュリティ確認の場面でさらに時間を奪う要因になりかねません。
IT資産管理ツールやSaaS管理ツールを導入すると、端末情報やアカウント状況を自動で収集できます。
退職者のアカウントが残っている、契約したまま使われていないライセンスがあるといった問題も、可視化されて初めて手を打てるようになるでしょう。
関連記事:IT資産管理とは?目的や管理項目、失敗しない進め方を解説
5. RPAとワークフローで定型作業を自動化する
手順が固まった作業は、RPAやワークフローシステムで自動化できます。
RPAとは、人がパソコン上で行う定型的な操作を自動で実行するソフトウェアのことです。
複数システムへのデータ転記や、定期的なレポート作成といった作業が対象になります。
申請と承認の流れであれば、ワークフローシステムのほうが向くでしょう。
たとえばアカウント発行の申請を紙やメールで受けている場合、ワークフロー化するだけで差し戻しや確認のやり取りが減ります。
申請内容が揃った状態で届くため、作業そのものにすぐ取りかかれるからです。
ただし自動化は、手順が安定している業務に限って効果を発揮します。
例外処理が多い業務に適用すると、かえって保守の手間が増えてしまう点には注意が必要です。
6. キッティングとアカウント発行を標準化する
入退社にともなう作業は、標準化によって負荷を平準化できるでしょう。
新入社員の受け入れ時期には、PCの設定やアカウント発行が集中します。
都度その場で判断していると、担当者の負担が一気に高まるでしょう。
機種や初期設定、付与する権限をあらかじめ定型化しておけば、作業は一定の型に収まるはずです。
具体的には、次の3点を決めておくと運用が安定します。
- 標準機種と標準構成:職種ごとに使用する機種と初期インストールするソフトを固定する
- 権限テンプレート:部署と役職の組み合わせごとに付与する権限をあらかじめ定義する
- 入退社チェックリスト:発行と回収の作業を漏れなく実施できる一覧を用意する
標準化は、そのまま外部委託の準備にもなるでしょう。
手順が定まっていれば、社内の別担当者にも委託先にも同じ品質で任せられるためです。
7. ノンコア業務をアウトソーシングする
社内のリソースだけで対応しきれない場合は、外部への委託が現実的な選択肢になるでしょう。
仕組み化には時間がかかります。
その間も問い合わせと運用業務は発生し続けるため、先に外部の手を借りて時間を確保するアプローチも有効です。
確保した時間を仕組みづくりに充てれば、改善のサイクルが動き出します。
委託の効果は、人手の補充だけにとどまりません。
対応範囲と手順を定義する過程で業務が可視化されるため、属人化の解消にもつながります。
詳しい進め方については、記事後半のアウトソーシングの章をご覧ください。
情シスの効率化に使えるツールの種類と選び方
効率化の手段としてツールを検討する際は、種類ごとの得意分野を押さえておく必要があります。
課題と手段がかみ合っていなければ、導入しても負担は減りません。
ツールの種類別に見る効果と向き不向き
情シスの効率化でよく使われるツールを、解決できる課題ごとに整理しました。
| 種類 | 解決できる課題 | 向いている場面 | 導入難易度 |
|---|---|---|---|
| チャットボット | 問い合わせの一次対応 | 同じ質問が繰り返し寄せられている | 低い |
| 社内wiki・ナレッジ共有 | 手順の属人化 | マニュアルが個人のPCに散在している | 低い |
| IT資産管理 | 台帳運用と棚卸しの工数 | 端末やライセンスを表計算ソフトで管理している | 中 |
| SaaS管理 | アカウントの棚卸しとコストの可視化 | 部門ごとにSaaSを契約している | 中 |
| ワークフロー | 申請と承認のやり取り | 申請をメールや紙で受けている | 中 |
| RPA | システム間の転記や定型作業 | 手順が固定された繰り返し作業が多い | 高い |
| MDM | 端末の設定とセキュリティ統制 | テレワークや社外利用の端末が多い | 中 |
導入難易度が低いものから着手するのが基本です。
小さな成功体験を先につくると、社内の理解も得やすくなります。
ツールを選ぶ5つの評価軸
候補が複数ある場合は、次の5つの軸で比較しましょう。
- 既存環境との連携
すでに使っている認証基盤やチャットツールと連携できるかを確認します。連携できないと、二重管理が発生しかねません。 - 自動化できる範囲
どこまでを自動で処理し、どこから人の作業が残るのかを具体的に確かめてください。 - 運用にかかる手間
導入後の設定変更やデータ更新を誰が担うのかまで見積もります。運用負荷が高いツールは定着しません。 - 拡張性
利用人数や拠点が増えたときに、追加費用と設定変更がどの程度発生するかを確認しましょう。 - セキュリティ要件
自社のポリシーを満たすか、ログの取得や権限管理が要件に合うかを事前に検証します。
比較の際は、機能の多さだけで判断しないよう注意しましょう。
使わない機能が多いツールほど、設定も運用も複雑になりがちです。
導入前に決めておく3つのこと
ツールを入れる前に、社内で合意しておきたい項目が3つあります。
| 決めること | 具体的な内容 |
|---|---|
| 1. 削減目標 | どの業務の工数を、月何時間減らすのかを数値で置く |
| 2. 運用担当と更新頻度 | データの登録や設定変更を誰がいつ実施するかを決める |
| 3. 使わないと決める範囲 | 当面は使わない機能を明示し、設計を単純に保つ |
とくに2番目が抜けると、導入直後は機能していても半年後には形骸化しかねません。
ツールは入れた瞬間ではなく、更新され続けることで効果を発揮するものです。
生成AIを情シス業務に組み込む方法
効率化の手段として、生成AIの活用も現実的な選択肢になってきました。
ここでは、情シス業務のどこに組み込むと効果が出やすいかを整理しましょう。
AIが効果を出しやすい3つの領域
情シス業務のなかでも、生成AIとの相性が良い領域は限られます。
文章や記録を扱う業務が中心です。
| 領域 | 使い方の例 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 問い合わせの一次対応 | 過去の対応履歴とマニュアルをもとに回答案を生成する | 回答作成の時間を短縮し、対応品質のばらつきを抑える |
| ドキュメントの作成と更新 | 対応履歴からFAQや手順書の下書きを起こす | マニュアル整備の心理的なハードルを下げる |
| ログや資産情報の集計 | 収集したデータの要約や異常値の抽出を補助する | 確認作業の時間を減らし、見落としを防ぐ |
いずれも、AIが出した結果を人が確認する前提で組み込むのが基本になります。
判断そのものを任せる使い方は、現時点では推奨できません。
利用ルールと情報の扱いを先に決める
AIの活用を進める前に、社内での利用ルールを整備しておく必要があるでしょう。
情シスが扱う情報には、アカウント情報やネットワーク構成、インシデントの記録が含まれます。
これらを外部サービスに入力してよいかどうかは、あらかじめ線引きしておかなければなりません。
最低限、次の3点は明文化しておきましょう。
- 入力してよい情報と、入力を禁止する情報の区分
- 利用を認めるサービスと、入力データの学習利用に関する設定
- 生成された内容を誰がどの基準で確認するか
ルールづくりは、情シス自身が全社に示すべき役割でもあります。
自部門での運用実績があれば、全社展開の際の説得力も高まるはずです。
現場に定着しない理由と防ぎ方
AIツールを導入しても、現場で使われないまま終わるケースは珍しくありません。
理由の多くは、回答の精度が低い状態で全社に公開してしまうことにあります。
一度「使えない」と判断されると、精度を改善しても利用は戻りません。
第一印象が、その後の定着率を左右してしまうのです。
防ぐには、対象範囲を絞って始める方法が有効になります。
問い合わせ件数の多い上位の質問に限定し、情シス内部で回答精度を検証してから公開しましょう。
使われる状態をつくってから広げるほうが、結果的に早く浸透するはずです。
情シスの業務効率化を90日で進める実行プラン
ここまでの内容を、実際に動かせる形に落とし込みます。
いきなり全部に着手するのではなく、3か月で一巡させる進め方を紹介しましょう。
0〜30日:棚卸しと優先順位づけ
最初の1か月は、着手対象を決めることに集中します。
実施するのは、業務の書き出しと工数の概算、そして判断業務と実行業務の仕分けです。
あわせて、問い合わせの内容を分類して件数の多い上位10件を特定しておきましょう。
この10件が、次の月に取り組む対象になります。
この段階で、削減目標も数値で置いてください。
「問い合わせ対応の工数を3か月で月20時間減らす」といった形が扱いやすいでしょう。
31〜60日:問い合わせを減らす仕組みをつくる
2か月目に取り組むのは、特定した上位10件への対策です。
まず、10件それぞれの回答手順をマニュアル化します。
次に、従業員が見つけやすい場所に集約しましょう。
社内ポータルや共有フォルダに置くだけでは埋もれるため、チャットツールから1クリックで開ける導線まで用意するのがポイントです。
周知も忘れずに行ってください。
問い合わせが来たときに「こちらに手順があります」と案内し続けると、少しずつ参照される流れができあがります。
61〜90日:自動化と外部活用に広げる
3か月目は、仕組みの範囲を広げる段階です。
マニュアルで対応できる範囲が見えてきたら、チャットボットへの組み込みを検討します。
同時に、棚卸しで洗い出した定型業務のうち、標準化が済んだものから外部委託やツール化の対象に回しましょう。
この時点で、最初に設定した削減目標に対する実績を確認します。
達成できていれば次の対象へ、届いていなければ原因を分析して施策を調整する。
この繰り返しこそが、継続的な改善のサイクルです。
効果測定に使うKPIの決め方
効率化の進捗は、次のような指標で測れます。
すべてを追う必要はなく、着手した施策に応じて2〜3個に絞るのが現実的です。
| 指標 | 測り方 | 目安 |
|---|---|---|
| 問い合わせ件数 | 月間の受付件数を記録する | FAQ整備から3か月で1〜2割の削減 |
| 自己解決率 | FAQやボットで解決した件数の割合 | まずは3割を目標に置く |
| 一次回答までの時間 | 受付から最初の返答までの平均時間 | 短縮傾向が続いているかを見る |
| 実行業務の割合 | 全工数に占める定型業務の比率 | 半年で1割程度の低下を目指す |
| 削減工数の金額換算 | 削減時間×人件費単価 | 投資判断の説明材料として使う |
記録は、着手前の状態を残しておくことが前提になります。
比較対象がなければ、成果を示せません。
最初の1か月で現状値を取っておきましょう。
関連記事:情シスが抱える課題と解決方法を解説!役割やアウトソーシング活用まで
情シスの業務効率化で得られる4つの効果
効率化の投資を社内で通すには、得られる効果を具体的に示す必要があります。
ここでは、説明の材料として使える4つの効果を整理しました。
1. コア業務に時間を回せる
最も直接的な効果は、判断を伴う業務に充てる時間が生まれることです。
問い合わせ対応や定型作業が減れば、その分をIT戦略の立案やセキュリティ強化、業務プロセスの改善企画に回せます。
これらはいずれも、まとまった思考時間を必要とする業務です。
細切れの時間では進みません。
経営層への説明では、「削減した月20時間を中期IT計画の策定に充てる」というように、使い道まで示すと理解を得やすくなります。
2. トラブルの予防と安定稼働につながる
業務が整理されると、システムの安定稼働にも効いてくるでしょう。
資産情報や設定内容が正確に管理されていれば、障害発生時に原因を切り分ける速度が上がるためです。
更新が滞っている機器やサポート期限が近いソフトウェアも、事前に把握できるようになります。
対応に追われる状態から、先回りして手を打てる状態へ。
この転換こそが、効率化の本質的な価値といえるでしょう。
3. セキュリティと内部統制の水準が上がる
効率化は、単なる時短ではありません。
リスク管理の水準を引き上げる取り組みでもあるのです。
たとえばアカウント管理をツール化すると、退職者のアカウントが残り続ける事態を防げます。
権限の付与基準を定型化しておけば、必要以上の権限が渡ることもありません。
棚卸しの記録が自動で残るため、監査対応の負荷も下がります。
手作業に依存した管理は、担当者が忙しくなるほど精度が落ちていくものです。
仕組みで回す体制に移すことが、結果としてリスクの低減につながります。
4. 全社の生産性が上がる
効果は情シス部門の中だけにとどまりません。
問い合わせへの回答が早くなれば、待たされていた従業員の作業も止まらずに済みます。
FAQが整備されていれば、そもそも待つ必要すらなくなるでしょう。
1件あたりは数分の待ち時間でも、全社で積み上げれば相当な工数になります。
この視点は、予算を確保する場面で有効に働くでしょう。
情シスの負担軽減ではなく、全社の生産性向上として説明できるためです。
情シスの効率化でよくある4つの失敗パターンと対策
効率化の取り組みは、進め方を誤ると成果が出ないまま終わります。
現場でよく見られる4つのパターンと、その防ぎ方を紹介しましょう。
1. ツールを導入しただけで運用が回らない
最も多い失敗が、導入がゴールになってしまうパターンです。
IT資産管理ツールを入れたものの、初期のデータ登録が終わらないまま放置される。
チャットボットを公開したが、回答内容を更新する担当が決まっていない。
いずれも、運用設計を後回しにしたことが原因になっています。
対策:導入を決める前に、運用担当と更新頻度を明記してください。
初期データの投入にかかる工数も、導入計画に含めて見積もっておきましょう。
2. マニュアルが更新されず形骸化する
整備したマニュアルが古くなり、参照されなくなるケースも少なくありません。
一度でも情報が古いと分かると、従業員はマニュアルを信用しなくなります。
結果として問い合わせが元の水準に戻り、整備にかけた工数が無駄になってしまうのです。
対策:完璧な文書を目指さず、更新しやすい形で残す方針に切り替えましょう。
対応した内容をその場で追記する運用にすると、鮮度を保ちやすくなります。
半期に一度、閲覧数の少ない項目を見直す機会を設けるのもよいでしょう。
3. 委託した業務の中身が見えなくなる
外部への委託では、業務の内容が社内から見えにくくなる点に注意が必要です。
対応範囲を定義しないまま任せると、どのような判断でどう処理されたのかが分からなくなります。
契約を見直す場面や、委託先を変更する場面で困ることになるでしょう。
対策:対応履歴の記録方法と共有頻度を、契約時に取り決めてください。
判断を伴う場面のエスカレーション基準も明文化しておくと、社内に知見が残ります。
4. 効果を示せず次の投資につながらない
4つ目は、成果を数字で語れないまま取り組みが終わってしまうパターンです。
着手前の工数を記録していなければ、削減できた量も分かりません。
「以前より楽になった」という感覚だけでは、次の予算獲得の材料になりにくいものです。
対策:最初の1か月で現状値を記録することを、施策の一部として組み込みましょう。
問い合わせ件数と平均対応時間を控えておくだけでも、比較の土台ができあがります。
アウトソーシングで情シス業務を効率化する
社内のリソースには、どうしても限りがあるものです。
ここでは、外部の力を使って効率化を進める際の考え方を整理します。
判断と実行を切り分けて考える
委託を検討するときの基本は、判断と実行を分けて捉えることです。
自社の事業やシステムの事情を踏まえた判断は、社内で下すのが原則になります。
他方、その判断にもとづく実行作業や判断材料を集める前工程は、外部に任せられる部分が少なくありません。
たとえばセキュリティ対策であれば、どの水準を目指すかを決めるのは社内の役割です。
他方、脆弱性の調査やログの監視、設定作業は外部の支援を受けられます。
この切り分けができると、委託できる範囲は想像より広いことに気づくはずです。
委託できる業務範囲
外部委託しやすい業務は、次の5つの領域に整理できます。
| 業務領域 | 委託できる業務の例 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| ヘルプデスク | 問い合わせの一次対応、操作説明、障害の切り分け | 作業の中断が減り、まとまった時間を確保できる |
| デバイス管理・キッティング | PCの初期設定、貸与と回収、故障時の交換対応 | 入退社が集中する時期の負荷を平準化できる |
| アカウント・SaaS運用 | アカウントの発行と削除、権限変更、ライセンス棚卸し | 作業漏れを防ぎ、退職者アカウントの放置を回避できる |
| ネットワーク・サーバー保守 | 監視、定期メンテナンス、障害の一次対応 | 専門人材を自社で抱えずに運用品質を保てる |
| セキュリティ対策 | 脆弱性対応、ログ監視、インシデント発生時の支援 | 専門知識が要る領域を継続的に補える |
関連記事:情シスアウトソーシング比較14選!代行・外注のメリットと選び方を徹底解説
委託先を選ぶ4つの確認ポイント
サービスを比較する際は、次の4点を必ず確認しましょう。
- 対応範囲と範囲外の線引き
どこまでを標準で対応し、どこから追加費用が発生するのかを具体的に確認します。 - 受付時間と一次回答の目安
問い合わせを受け付ける時間帯と、最初の返答までの目安時間を取り決めてください。 - 対応履歴の共有方法
どのような形式で、どの頻度で共有されるのかは事前に決めておくべき項目です。 - エスカレーションの基準
判断が必要な場面で、どのタイミングで社内へ引き継ぐかを明文化しておきましょう。
費用の考え方
費用は、対応範囲と稼働量によって大きく変わります。
比較する際は、月額だけを並べても判断できません。
対応可能な業務の範囲と受付時間を揃えたうえで比べる必要があります。
安価に見えるサービスでも、範囲外の作業が都度課金であれば総額は膨らみかねません。
検討の目安としては、削減できる工数を人件費に換算した金額と比較する方法が分かりやすいでしょう。
月20時間の削減が見込めるのであれば、その金額が判断の基準になります。
関連記事:情シスアウトソーシングの費用相場は?料金体系と選び方を解説
情シスの業務効率化に関するよくある質問
最後に、効率化を検討する企業から寄せられることの多い質問をまとめました。
情シスの効率化は何から始めればよいですか?
業務の棚卸しから始めてください。
どの業務に何時間かかっているかが分からないままでは、優先順位を決められません。
1週間分の業務を書き出し、件数と所要時間を概算するだけでも十分な出発点になるでしょう。
少人数の体制でも効率化は進められますか?
進められます。
むしろ1〜2名で全体を見る体制ほど、仕組み化の効果は大きく表れるものです。
ただし改善のための時間は自然には生まれないため、週に数時間でも枠を確保することから着手しましょう。
効率化にかかる費用の目安はどのくらいですか?
施策によって幅があります。
マニュアルやFAQの整備は、社内の工数だけで着手できるため費用はほとんどかかりません。
ツール導入や外部委託を検討する場合は、削減できる工数を人件費に換算した金額と比較して判断するとよいでしょう。
ツールを導入すれば業務は減りますか?
導入するだけでは減りません。
手順が整理されていない業務を自動化しても、非効率な流れがそのまま残ってしまいます。
棚卸しと標準化を先に済ませたうえで、ツールを当てはめる順番が有効です。
効率化の効果はどう社内に説明すればよいですか?
削減できた工数を金額に換算して示す方法が分かりやすいでしょう。
あわせて、生まれた時間を何に使うのかまで説明しましょう。
そのためには、着手前の状態を記録しておく必要があります。
効率化を進めると情シスの人員は減らされますか?
効率化の目的は、人員の削減ではありません。
定型業務に費やしていた時間を、IT戦略やセキュリティ強化といった判断業務へ振り向けることにあります。
提案の際も、削減した時間の使い道をセットで示しておくと誤解を招きにくいでしょう。
まとめ|情シスの業務効率化は着手する順番で決まる
本記事では、情シスの業務効率化に有効な7つの方法を優先順位つきで解説しました。
- 1. 業務の棚卸し:削減余地を数字で把握する
- 2. マニュアル・社内FAQ:費用をかけずに問い合わせを減らす
- 3. チャットボット・AI:一次対応の入口を自動化する
- 4. IT資産管理・SaaS管理:台帳運用の工数をなくす
- 5. RPA・ワークフロー:手順の固まった作業を自動で回す
- 6. キッティングの標準化:入退社時の負荷を平準化する
- 7. アウトソーシング:実行業務を外部に切り出す
効率化がうまく進まない原因の多くは、方法の選び方ではなく着手する順番にあります。
棚卸しを飛ばしてツールを導入すれば、削減余地の小さい業務に投資してしまうでしょう。
まずは1週間分の業務を書き出すところから始めてみてください。
同時にすべてへ手をつけないことが、結果としていちばん早い道になります。










